私は テニスの試合を 思い出していた。

ダブルスでは 私が前衛で 綾乃が後衛だった。


私は いつも 後ろに綾乃がいることで

安心して プレイを していた。


「渚 今日 調子悪い?」

「ううん。緊張してるだけ。」

「渚が 落としたら 私が 拾うから。リラックスして。」

「うん。ありがとう。」


綾乃が 不調の時 私は 全力でサポートした。

綾乃も 私には 素直に 頼ってくれた。


「綾乃。足首 大丈夫?」

「まだ少し 張りがある。」

「私 拾えるだけ 拾うから。綾乃が 走らなくていいように するからね。」

「お願い 渚。」


コートの中では あんなに 助け合えたのに。

今 私達は お互いの為に 何もできない。


それぞれの 人生なんだから 当たり前だけど。

何もできないから 無責任なことも 言えない。


「私達 本当に 大人になっちゃったんだね。」

私の 突飛な言葉の 意味を 

綾乃は 理解してくれた。


「うん。ずっと テニスだけ やっていられたら よかったのにねぇ…」


その声は あまりにも 寂しくて。


私は 胸が痛くなるくらい 切なかった。