「ねぇ 誠。少し ドライブして帰ろう。」

「うん。いいよ。山の方に 行ってみるか?」


誠の言葉に 黙って頷く私は 

年甲斐もなく 恋する少女だった。


「私 本当は 今日 来たくなかったんだ。」

「んっ?どうして?渚がいないと 始まらないだろう?」

「まさか。いつまでも 昔の自分に しがみ付いているの イヤじゃない。」

「そんなこと ないだろ?渚は 今でも 華があるよ。」

「華なんか ないよー。毎日の生活に 押し潰されそうだよ?」

「それは 俺も同じだよ。東京で 1人で生きていくって 容易じゃないから。」


私は 綾乃にさえも 言ったことがない

弱音を 誠に こぼしていた。


「西野とか 水田さんみたいに 生きられたら 幸せだったのかな。」

「寂しいこと 言うなよ。渚は クラスみんなの 憧れなんだよ?」

「ううん。狭い世界で いい気になっていただけだよ。」

「まぁ そうやって 弱音を吐く 渚も 可愛いけどね。」


私は ハッとして 誠の横顔を 見つめる。


何で 誠は そんなことを言ったのか。

恋愛経験の 乏しい私には よくわからなかった。


ただの 社交辞令だと思って 聞き流したけど。

30才にもなれば うまいことが 言えるようになる。


それでも 私は 嬉しかった。