大切な芸人(ヒト)~ヒーローと始める恋の奇跡~

そんな話をしながらドライブを楽しんでるオレらは、一時間くらい走ってとある場所で車を停めた。

想い出のカフェだ。

近くに海があって、波のことが心地よい、居心地の良いカフェ。

ここのマスターがまた気さくな人で優しくて面白い。

ワイルド系でアロハシャツにロン毛だけど、マスターが淹れるコーヒーは絶品でファンも多い。

コーヒーだけでなく、オムライスやパスタといった軽食メニューも豊富で、それも全て手作りされていて、どれもかなり美味しい。そして何より、安い!

なので、オレらもよく来ていたし、ここでネタ合わせとかしたこともあった。

趣味でサーフィンもしてるらしく、休みはずっと海にいるとか聞いたことがある。

「懐かしいなぁ~。ここ」とオレが言うと、

「2人で来るん久しぶりやん?そろそろ2人ともサーフィン始めない?」とマスターに言われた。

「俺ら、コンビ解散したんですよねー」とコイツは言う。

「…そうけ、まぁええ。楽しんでるんやろ?2人とも。ならそれでええよ!でメニュー何するよ?」とマスターに言われた。

オレらは適当に注文した。

近況やらなんやらを2人でたくさん話した。

食べながら。食後にはコーヒーいれてもらって。

「お前ら、なんか…コイビトみたいだな」とマスターがいってくる。

「…そう見えます?」とオレが言うと、

「見えるねぇ~」とマスターは言って豪快に笑う。

「…今度、彼結婚するんですよ。だから、独身最後にデートしてくれないかって俺が頼んだの!」とコイツは言う。

随分ストレートだな。

「そうか~おめでとさん。いやぁ、若いって良いね~」とマスターは言った。

オレらは顔を見合わせて笑った。

「これ、サービスね!」とマスターは言ってデザートをつけてくれた。

「良いんですか?」とオレが言うと、

「結婚祝いだ」と優しく微笑まれた。

オレらはデザートを美味しく食べながら、談笑を楽しんだ。

そこへ「マスターいつもの!」と元気に入ってきた男性。

真っ黒に焼けた肌から、サーファーなんだろうと思う。

「あ、いつもの?OK、適当に座って」とマスターに言われて、その男性はカウンターの端の席に座った。

「珍しい客来てるじゃん!」とその男性は言った。

「あー、昔はよく来てたんだよ?」なんてマスターは言った。

「そうなの?どっかで見かけた顔なんだけど…」とマスターと話している男性。

「…芸人さんだよ」とマスターに言われて、オレの方を見た男性は

「…お邪魔しても良いですか?」とオレらの席に来た。

断るに断れないオレ。

「…ハハ、デート中だぞ?邪魔してやるなや」なんてマスターは言う。

「良いですよ!全然!」とオレは横を勧めた。

「良いんですか?お邪魔しま~す」とチャラく軽そうな男性は言ってオレの横に座った。

「はい、アイスコーヒー、ミルク多めの微糖ね。今日の豆はグアテマラだから!」とマスターは言って彼の前にコーヒーを置いた。

「ありがとう!良いねぇ~」と良いながら飲む男性。

オレらは黙ってしまう。

彼はオレの顔をマジマジと見て

「…渡辺渉…さんですよね?」と言った。

意外だった。オレのことを知ってる人がいたことに驚きを隠せない。

「ほら、だから!自信もってっていつも言ってるだろ!お前だって今やちゃんと名のある芸人なんだから」とコイツ言われて頷いた。

「ありがとうございます。知ってるくれてるんですね~」とオレが言うと、

「もちろんだよぉ~!お笑い大好きだもん。で、君は元相方のキラさんだよね?」とこの人はオレの前のコイツを見ながら言った。

「…俺のこともしってんの?もう辞めて長いのに…」とコイツ。

「二人の漫才大好きだったんっすよ。解散して少し寂しい思いしたけど、円満解散だって言ってたし、ソロで渉さんは活躍してるし…こんな形もあるんだなぁって」とこの人は言う。

よくよく、内情を理解してるように見えるこの男性はよほど、お笑いが好きなことが見てわかった。

「これからも頑張ってくださいね!応援してます」と男性は言ってコーヒーを豪快に飲んだ。

そして、「写真良いですか?」と聞いてきたので、もちろん!と言ってオレら3人で写真を撮った。

その後、マスターと少し話して去っていった男性。

オレらはその背中を見送った。

「来て良かったね!」とコイツ言われて、オレは頷いた。

「せっかくだし、一緒に写真撮っとかないか?日付も入るし、2人の大切な想い出としてさ、額に入れて飾っとくよ」とマスターに言われて、オレはお願いした。