「ああ、そうそう。質問の回答がまだだったね」

男性はそう言い、杏菜を離す。そして杏菜が驚くことを口にした。

「僕の名前はダミアン・スズキ・トリクシィ。ここクラリネッタ王国の次期国王だよ。杏菜、君がいるのはクラリネッタ王国のお城なんだ」

「えっ！？王子！？」

杏菜はその時、後輩たちが目を輝かせて話していたあの時のことを思い出す。目の前にいるのはあの時に見せられた写真の中の王子だ。

「でも、どうして？私、あなたとは一度も会ってないはずで……」

混乱する杏菜の手をダミアンが優しく掴む。そして、「会ったことあるんだよ。ほら、スタバで」と微笑んだ。

「あっ！あの時の！？」

偶然落とし物を渡した男性が王子で誘拐犯など、戸惑う以外に感じることなどない。杏菜の頭は混乱し、ダミアンはその様子を見てまた嬉しそうな顔をしていた。

「僕は女性たちから顔が少しいいとか、王家の人間だからとかで好きと言われることが多かったんだ。純粋に僕の内面を愛してくれる人はいなかった」