男性は杏菜にゆっくりと近づき、杏菜の手を取る。そして「初めまして。驚かせてしまって申し訳ない」と言いながら杏菜の手に口付けた。

「な、何を……！！」

突然キスをされ、戸惑う杏菜に「この国ではキスは当たり前だよ？」と男性が笑う。その男性の言葉に杏菜は「えっ？国？」と首を傾げた。

「体、痛くない？さすがに空港で眠ってる女の子を連れて歩くわけにはいかないからスーツケースの中に君を隠して連れて来たんだ」

男性の言葉に杏菜は顔が真っ青になっていくのが自分でもわかった。杏菜は外国に連れ去られてしまったのだ。逃げても助けを求められないし、警察が捜査してくれるとは限らない。

「ここはどこなんですか？あなたは誰なんですか？」

体を震わせながら杏菜は訊ねる。男性から距離を取ろうとするが、すぐに男性に捕らえられ、抱き締められた。

「やッ……！」

杏菜は必死で男性の胸板を押すが、男性から離れることはできない。男性は杏菜の頭にキスを落とし、「可愛いね。連れて来て正解だったよ」と満足げに笑う。