旅行で来たのかな、こんな素敵な服を着ているなんてお金持ちなんだろうな、と杏菜は思いながら列が動くのを待っていた。

「お待たせしました!次の方どうぞ!」

笑顔で店員さんが言い、列が少しずつ動いていく。外国人の男性も移動を始めたのだが、その時、男性のかばんの中から革で作られた手帳が落ちた。男性はそれに気付いていない。杏菜は慌てて手帳を拾い、声をかける。

「イ、イクスキューズミー!」

英語は苦手だが、声をかけるしかない。杏菜が声をかけると男性はゆっくりと振り返る。メガネをかけているがその顔が華やかであることは杏菜にもわかった。何故か男性は少し怯えた顔をしている。

「えっと、あの、落としましたよって英語でなんで言うんだっけ……?」

手帳を手に、杏菜はオロオロし始める。すると男性はかばんの中を見てから「ありがとう」と杏菜の手から手帳を受け取った。「ありがとう」と日本語で言ってくれた。

「い、いえ!」