俺は分かっている…。
小夏は俺を男として見ていない事を…。
例え周りが小夏は俺が好きだと言っても、小夏は俺を幼馴染みとしか見ていない事を…。

でも、小夏は知らない。
俺に持っている感情が、恋愛感情では無いことを。
小夏は、『昔からの特別な友達』の感情を恋愛と言う言葉に当てはめているだけだ。

どんなに小夏が俺に告ろうが、周りがどんなに騒ごうが、それは変わらない。

小夏は気付いてすらいない。
本当は他に、好きな奴がいることを……いや、気付いているが気づいていない振りをしているのかもしれない。
けれど『叶うことのない恋だから』と無意識に言い聞かせて幼馴染の俺を見ているだけなんだろう…。

「それに俺、好きな奴いるから。」

俺は小夏の目を見て言うと、小夏はピタリと動きを止めた。

「…えっ?……た、たくちゃん…好きな人、できた、の?」

悲しみで潤む小夏の瞳に、グッと拳を作り握りしめる。

「…あぁ……。」

「だ、だれ?」

10cmも違う俺を見上げる小夏は自然と上目遣いになる。

「……馬鹿みたいに、優しい奴だよ。
自分の事より人の事を第一に考えて、凄い心配性で…、わざとやってんのかって思うくらい…鈍い奴だ。」

俺がそう言うと、小夏は俯いて黙った。

小夏を抱きしめたくなる衝動を抑え、俺はポンッと1回小夏の頭に手を乗せて リビングから2階の俺の隣の部屋にあるドアロック付きの勉強部屋へ退避した。

ドアロックをした後、その場で蹲り 震える手をグッと握りしめる。

これでいい…。
これが正しい選択だ。

何度も何度も言い聞かせるが、浮かぶのは小夏の今にも泣きそうな表情…。

「クッソ…。」

小さく呟いた声は 静かに消えた。

さっきまで明るかった窓から漏れる日差しは、オレンジ色の日差しに変わっていた。