そんな。
彼氏がいると思われていた方が安全だなんて、じゃあ私は一生彼氏がいると嘘をつき続けなければいけなくなる。

「どうしよう樹くん。」

思わず袖をつかむと、樹くんは困った顔をした。

「そういう可愛い顔して煽ってくるのやめてください。」

「困ってるの。」

樹くんは私から視線を外すと、ボソリと呟いた。

「こっちが困るっての。」

「…そうだよね、ごめんね。」

私はガックリと肩を落とす。
だいたい私は樹くんに頼りすぎなのだ。
もっとしっかりしないといけないと思う。
思うけれど、ダメ人間な私は解決策がまったく見出だせない。
この先どうしたらいいのだろう。

「俺が彼氏でいいじゃん。」

樹くんの発言に私は顔を上げる。

「え?」

「俺が姫乃さんの彼氏。はい、もう決まり。異論は認めません。」

「で、でも?」

「何?異論は認めないって言ってるでしょ。」

樹くんは腕組みをして深いため息をついた。

「樹くん迷惑じゃない?」

「迷惑じゃない。」

「だって私年上だし。」

「関係ない。」

「鈍感で天然で箱入り、だし。」

「可愛いんじゃない?」

「でも…。」

「うるさい、もうその口黙らせる。」

樹くんは怒ったかと思うと私をソファに押し倒し、唇を塞いだ。
息ができないくらいに深く激しい強引なキスに、私は涙目になってしまう。
怒られているのか甘やかされているのかわからないこの状態に、頭はまったくついていかない。

ようやく唇が解放されると、樹くんは私を見下ろしながら小さく言う。

「俺は姫乃さんが好きだから。それだけ。」

「…うん。」

とたんに胸がきゅーんと締め付けられ、ただ返事をするので精一杯だった。