自動ドアが開くと奥は少し薄暗くなっていて、その雰囲気が余計に私を緊張させる。

嫌だ。
行きたくない。
助けて。
誰か助けて。

ぎゅっと目を閉じると同時に突然手を後ろに引かれ、私はよろけた。そのまま誰かに抱き止められる。それは早田課長ではないことだけはわかった。

「姫乃さん何してるの。」

その声はよく知っている声で。
その声だけで私は安心感に包まれた。

「何をしているんだ、大野。」

早田課長が叱責する声が背中越しに聞こえる。
樹くんは私を胸に抱えたまま、冷ややかに早田課長に対峙した。

「それはこっちのセリフですよ、早田課長。姫乃さんをどうするつもりだったんです?」

「どうするもなにも、彼女の方から休憩したいというから、俺は着いてきてあげただけだよ。人聞きの悪いことを言わないでくれ。」

「ち、ちがっ。」
「帰りますよ。」

否定する言葉は樹くんによって遮られた。
私の手を引きさっさと歩き出す。

「あ、そうそう。証拠写真は撮りましたので、部長に報告しておきますね。」

樹くんは振り向き様にそう言うと、早田課長に対して冷たく笑う。

「大野、そんなことしていいと思っているのか。」

「何がです?早田課長は既婚者。俺と姫乃さんは独身。何か問題ありますか?」

樹くんの言葉に、早田課長は苦虫を噛み潰したような顔になった。
そして私は樹くんに強引に引きずられながらその場を去った。