夜、樹くんの家で夕飯を一緒に作りながら、私は切り出した。

「樹くん。私は早く恋人を作らなくてはいけません。」

「年齢的に?」

「ぐっ。それもあるけど。」

樹くんは痛いところを突いてくる。
それはそうなんだけど、今回はそうじゃない。

「焦ると失敗するっておみくじに書いてありましたよ。」

確かにおみくじにはそう書いてあったし気にもしてる。でも焦るものは焦るのだ。だって今日あんなことがあったし…。

「恋人がいないと早田課長の慰めに合うんだもん。」

「…なんだそれ。」

「そうやって言われた。だから早く彼氏がほしい。」

テーブルに箸とコップを並べながら軽く言うと、樹くんの眉間にシワが寄った。

「またセクハラ受けたの?」

怒ったような口調に私は少しビクビクしながらも、コクンと頷いた。
樹くんは大きなため息をつく。

「課長と二人きりにならないこと。」

「でも会議の準備とか断れないし。」

「訴えていいんだよ。」

「だって上司が課長だもの。誰に相談したらいいか。」

樹くんはまた大きなため息をつくと、ソファーにどっかりと座った。

「姫乃さん。ちょっと。」

手招きされるので不思議に思うもほいほい寄っていく。

「なあに?」

「あのさ、」

「きゃっ。」

言うや否や手を取られ、そのまま強い力で引き寄せられてソファーに押し倒された。
両腕を押さえられ身動きできない。
樹くんは私の腕を押さえたまま、上から見下ろしてくる。

「こうされたらどうするの?どうやって逃げるの?」

確かに、腕をほどこうにも男の人の力には全然敵わなくて、私にはどうすることもできない。

「姫乃さん無防備にも程がある。」

冷たく言われ、思わず目頭が熱くなった。
そのまま樹くんの顔が近づいたと思った瞬間、唇を激しく奪われた。

「んんっ!」

角度を変えて何度も何度もするので、私の息は絶え絶えになってしまう。そんな私を楽しむように、樹くんは不敵に笑った。

「キスくらい簡単にできるからね。肝に銘じて。」

ようやく腕がほどかれたのに私は衝撃のあまり動けなくて、結局樹くんに起こしてもらった。

なんかいろいろ情けなくてため息が出てしまう。