私の人生はつまらないものだった。
確かに無難には楽しめたと思う。
けれど、それがどんなに素敵だったか話せと言われたら話せない。

よくあるあの質問だって必ず答えは『NO』だ。

そんな人生はこれから先も何も変わらないんだと思ってた。

「余命1年です。」

目の前の細い黒縁眼鏡をかけた50代の男性がそう言った。

「余命…ですか…?」
「はい。拡張型心筋症というものです。ご両親や身内の方はいらっしゃいますでしょうか?」

両親…その言葉に顔が一瞬にして暗くなる。

「いいえ。」

私の両親は、ただの戸籍だけの両親だった。
そんな彼らに何かをしてもらおうと思ったことなど、この歳になるまで1度もない。

いや…あったかな………
叶わなかったけれど。

1度だけ。

愛して欲しいと願った。

「中村さん?大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です。」
「急なことで驚かれたと思いますが、これから頑張って治療していきましょう。」

どうやら、私の意識がどこかにいっていたのが、余命宣告によるものだと思っているらしい。