「ねえ、紀乃ちゃん?」
そう呼ぶと、ぱっちりした彼女の目がこちらに向く。
思わず照れが生まれる。
「ハンカチ以外にも、遊びに誘ってもいい?」
「……え?」
「俺、土曜と水曜は部活無いんだ。
紀乃ちゃんのスクーリングの後とか、水曜の放課後とか。どっか遊びに行かない?」
「……えっ、と…」
反応がどっちなのかよく分からない。
ちょっと助けただけのくせに、調子に乗りすぎ!みたいな反応なのか。
男に誘われ慣れてなくて戸惑ってるだけなのか。
よし、後者だと信じて、押してみることにしよう。
…授業も始まっちゃうことだし。
今思い出したわ。
「また連絡するから、それまで考えておいて?」
「……分かりました」
「じゃ、また!」
手を振って、教室に走る。
はい逃げー。
授業始まっちゃう!っていうのもあるけど。
これは逃げー!
ペンポーチを手に取りUターンしようとすると、紀乃ちゃんがいる。
「おおっ、ここで授業なの?」
「……はい」
「そうなんだ。頑張ってね!」
ちょっとビックリしたな…。
俺は急いで走って、学校を後にする。
通信制の生徒が登校する日は、全日制の先生はいないらしい。



