富永勝…あんなに弱弱しくて、
痩せていて、背も低くて
おまけに声も高かったのに
どこであんな男らしく変身したんだろう
どこで何があって、
あんな髪色にしようと思ったんだろう
どこで、あんなパンチ、覚えて
どこで、喧嘩の仕方を、学んだんだろう
「男ってさ、変わるもんだね」
「へー?」
「背も、顔も、髪も。それに性格まで。どこでどうやって、あんな男らしさを得るの?」
「成長すんのよ、男は急激にね。女と違って、背も馬鹿みたいに伸びるし。体もデカくなる」
「顔は、どこでかっこよくなるのかな?」
「それ、小学校の時の男友達に会ったら、まず思うよね」
私は軽く頷いて、
また富永勝のことを思い出していた
今の富永じゃなくて、昔の
私と富永が同じ学校に通い、
同じクラスだった頃の
弱弱しい富永勝
あの頃の富永は、
私のことをアンちゃんと呼び
ずっと私の命令に従っていた
私達は小学1年生の頃に出会った
アンズちゃんって言うの、
可愛い名前だね、って
あいつから声をかけてきた
それから私達はよく一緒に居た
アンちゃん、アンちゃん、って
私に付きまとうあいつが
無性に可愛くて
幼なながらに、
母性本能とやらを、
刺激されていたのかもしれない
好きとか、そんな感情はなかった
ただの友達
本当に、ただ、それだけだった
私の記憶に富永勝が鮮明に残っているのは、
ある事件がきっかけだ
私が小学6年生のとき、
近所のゲームセンターで変な
中学生に絡まれていたとき
富永勝は、私の彼氏だと言い張り、
その中学生たちに
やめてください、お願いします、
と頭を下げた
私はただあっけに取られていた
そのあとその中学生たちは、
可愛いカップルだな、と私達を冷やかし
笑いながら去っていった
私は富永に、
どうしてあんな嘘ついたの、と
彼氏と言い張ったことを、
問い詰めてみたところ
俺の願いだから、
とだけ言い、走り去っていった
あの頃の私は、変なやつ、と思いながら家に帰り
その後も、富永との関係は、
今までどおり平行線を辿っていたが
今、よく考えてみると
あれは、富永勝からの、
告白だったのかもしれない
「悪いことしたな…」
「え?なんか言った?」
「ううん、なんでもない」