+++

「執事いいいいぃぃぃぃぃ!!!!」

雄叫びを上げながら時速約20キロで廊下を走るアナベル点Pは、その勢いのまま教室のドアを開け放った!!

そこには――

「あなたはだんだん眠くな〜る……あなたはだんだん眠くな〜る……」
「何を言ってるんですか。僕はお嬢さまを探しに行かないと……むにゃむにゃ」

謎の黒髪黒スーツに催眠術をかけられている、執事の姿があった!!

五円玉を紐に通した昔懐かし素敵グッズを持った怪しさゴリゴリの黒スーツは、アナベルに気づくと慌てることも無く話しかけた! 何やら不敵な笑みを浮かべている!!

「今さら何しても無駄だよ。もう(かれ)には(きみ)の声など届かな」
「どぉらあああああ!!!!」

アナベルの飛び膝蹴りが執事の鳩尾にクリーンヒット!!
執事は「ぐはあッ!?」との断末魔とともに床へと倒れ伏した!
これには黒スーツも大困惑!!

「えええええ!? 仲間じゃなかったの(きみ)たち!?」
「仲間ですわ!!」
「無理があるよこの状況だと!!」

そんな黒スーツを後目に、執事の肩を親の(かたき)のように揺するアナベル。
執事は小さく呻いたあと、「はっ!?」と目を見開き起き上がった!

「ぼ、僕はいったい……」
「執事気が付きましたわね! んもぅあなたいつから操られてたんですの!?」
「操られ……? そ、そういえば、昼休みに入ったくらいから記憶がないですね」

などと会話しているふたりは、黒スーツがスマホを手にしていることに気づいていなかった。

「くっ……仕方ない、増援を呼んで――」


「お仕事は終わりアル、王梓(ワンズー)

ふいに涼やかな声が響きわたる。
――玲玲(リンリン)である!!

「お、お嬢!? 」
「今日のところはここまでにするアル。アナベルに振られちゃったから早退するアル〜、王梓車出して〜」

玲玲はしょんぼりとした態度ながら、飄々(ひょうひょう)とした態度は変わらない。
むしろ、どこか嬉しそうですらある。

「ちょっ……玲玲! ちゃんと説明を――」
「アナベル、また明日アル〜〜〜」

玲玲は黒スーツこと王梓にお姫様抱っこをさせると、地上3階の窓から優雅に飛び降りた!!
が、たぶん魔法でなんとかした。

――しばらくして、車のエンジン音が遠ざかると。
アナベルはやっと息をついた。

「な、なんだったんですの……」
「……珍しいですね。いつもなら僕に追わせるのに。徒歩で」

「……そうですわね……不思議ですわ」

アナベルは、なぜだか玲玲のことを心から嫌いにはなれなかったのだった。


――そしてとにかく、何考えてるのか分からなくてめちゃくちゃ怖いのだった!!