暗い気持ちで帰宅した自宅アパートの前、立っていたスーツ姿の男を見つけ、香耶はハッと息を飲んだ。
「香耶……」
まだ午前中のこの時間、ここにいるはずのない人間がいることに、香耶は、驚くと共に恐怖を感じる。
「なんで……」
目を見開く香耶の表情が見えないのか、男はいつもの笑顔を浮かべて、香耶へと近づいてきた。
「会社に行ったら、今日は帰ったって聞いたからさ……具合悪いんだって?大丈夫?」
「なに言って……会社に行った?」
「そうだよ。香耶が電話に出てくれないから……」
すねたように言って、男がコンビニのものらしいビニール袋を差し出す。
「これ、香耶の好きなの買って来たから」
「え……なにこれ」
幻でも見ている気持ちで、香耶は優し気に笑う男を凝視した。
今、私は夢を見ているんだろうか?
それとも、あの夜のことが、私の妄想が作り上げた悪夢だった?
混乱する頭を支えるように手を当てると、駆け寄ってきた男が香耶の肩を支えた。



