「ねえ、顔、真っ青だよ?大丈夫?」
「あー……うん、ちょっと……大丈夫じゃないかも……」
さっきの電話を受けた佐々木が、どう思っているのか……こわくて、顔があげられない。
「今日はもう帰ったら?すごく具合悪そうだし……」
「うん……ごめんね……ちょっと……キツい」
目を合わせられないままで香耶が答えると、佐々木は手にしていたメモを差し出しながら、心配そうに言った。
「これ、さっき、山本さんに電話来てたんだけど、急ぎとは言われなかったから、明日とかでもいいと思うよ」
「そう……ありがとう」
見たくない名前が書いてあるのは予想できたけれど、受け取らないわけにもいかず、香耶は震える手でそれを受け取る。
社会人として情けないけれど、こんな状態では、とても仕事なんてできそうにない。
受付嬢なんて、気楽な仕事だと思われがちだけれど、いつでも人目につく仕事。
派遣と言えども、企業の顔として、ここに座っている限り、愛想笑いの1つもできないなんて、意味がないのだ。
視線を落とせば、手にしたメモに書かれていたのは、あの人の会社名と名字。
苦々しい気持ちで、それを数秒、見つめた後、香耶は指先の震えを押さえるように、くしゃっと小さな紙片を握りつぶした。



