ウルルであなたとシャンパンを


開けかけていたドアのノブを掴んだまま、足を止める。

息を詰めるようにして様子をうかがっていると、佐々木の声が続けた。

「失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?……はい……」

佐々木の声が、あの人の会社と名前を復唱して、香耶の頭から血の気がひいていく。


また電話してきて……どういうつもりなの?


何の用だか知らないけれど、通常は、香耶のような派遣の受付嬢に、取引先からの電話などかかっては来ない。

こんな風に電話をして来られたら、何かある、と思われるに違いない。

たくさんある取引先の1つ。

特に目立つわけでもない営業のことを佐々木が覚えているかはわからないが、既に終わった忘れたい関係を蒸し返されるのは嫌だった。

どうしよう……?

佐々木への言い訳がぐるぐると頭を回る中、通話の終了の言葉が聞こえて、香耶はのろのろとドアを開いて、受付カウンター内の席へと戻った。

「ごめんね……」

消え入りそうな声で謝罪すると、佐々木はこちらを振り返り、ぎょっとしたように目を見開いた。