昨日、ずらっと並んでいた着信の内容はほとんど見ていないけど、話すことはないし、あんな風に職場に連絡してくるなんて非常識だと、香耶は思う。
何かあったんだろうか……?
私のことで、奥さんとなにか……?
それとも、もっと大変なことが……?
思わず考えてしまって、はたと気づく。
あの人の心配なんて、私がすることじゃない。
私は奥さんとあの人の仲を裂こうだなんて思ってないし、結婚していると知った今は、二度と会うつもりもない。
ぴしゃっと、未練がましい自分の頬に気合を入れるように両手で叩く。
未練なんかない。
別れて正解だと思ってる。
あんな人、私はもう関係ない。
大丈夫、そう自分に言い聞かせて、震える指先をもう片方の手で包みこむ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫…………
たっぷり20回以上も繰り返して、ようやく仕事に戻れる状態になった香耶がドアを開けようとすると、その耳に、小さく佐々木の声が聞こえた。
「はい……山本ですか?」



