次の日、出勤した職場は、当然のことだけれど、いつも通りで。
香耶はなんだか安心して、自然と笑みを浮かべることができた。
営業スマイルというか、仕事上の愛想笑いができないんじゃないかと心配していた香耶は、内心ちょっとどころじゃなく、ほっとした。
ミーティングを受け、引継ぎ事項などの確認をして、本日の持ち場について5分後に、異変は起きた。
「お電話ありがとうございます。○○商事でございます。」
受話器を取って、定型の挨拶をすると、少しの沈黙の後、くぐもった声が香耶を呼んだ。
「…………香耶……」
ぎくり、とこわばった指先が勝手に動き、通話を切断する。
相手の番号は表示される仕組みになっているけれど、その番号までは暗記していなかった。
受話器を持ったまま固まっていると、隣に座った同僚の佐々木が声をかけてきた。
「どうかした?……なんか顔色悪いよ?」
「え……あ……あの、ちょっと……」
答える言葉が終わらないうちに、また電話が鳴る。
なんだか嫌な予感がした香耶は、ガチャッと手にしていた受話器をやや雑に置いて、立ち上がった。
「ごめん、ちょっと気分が悪くて……3番チェックに行ってきます」



