「なんで……」
思わずスマホを取り落とした香耶の目の前で、今度は短くスマホが震えた。
えっ?と思う間にも、またやってくる短い振動。
1度だけではない。
2度3度と続く振動に、おそるおそる裏返っていたスマホを拾うと、またスマホが震える。
『出て』
短いメッセージに、何を言っているのかと思った瞬間、また同じ名前が表示される。
『頼むから』
『話がしたい』
『電話じゃなくてもいいから』
「なに言ってんの……?」
今更、何も話すことなんてない。
それなのに……
なんで連絡なんかしてくるの?
『返事だけでも下さい』
『1回だけでもいいから』
香耶の中で、自然と消えていくのを待とうと思っていた、彼との良い思い出が、音を立てて崩れていくのを感じる。
『香耶、頼む』
抜け出そうとした悲しみに、また引き戻そうとする男を、初めて、憎いと思った。
「信じられない」
画面をタッチして、苛立たしい男のメッセージがずらっと並んだ画面を開くと、中はもう、読まずに相手をブロックした。



