何度も同じことをして……芸のない男……
振り返らない香耶の、冷えた空気を感じたのか、少しだけ、手首を掴んだ男の手の力が弱まる。
「あ……いや……その……俺に何かできることがあれば……って」
「何もない」
「いや、でも……」
「じゃあ、手を離して」
掴まれたままの手に、いらだちが再燃しはじめて、香耶は振り返って、男を睨んだ。
「あなたに今、できることでしょう?……この手を離して。今すぐに」
語気を強めた香耶に、ようやく本気を感じたのか、香耶の手首を掴んだ手から力が抜けていく。
ゆるゆると解放された少し赤い手首をさすって、香耶はふっと、この状況に渇いた笑いを漏らす。
「何でもしてくれるっていうのなら…………返してよ」
いびつな笑いに唇をゆがめた香耶を、意味が分からない、というように見返す男。
その小者感あふれる頼りない目を見つめて、もう一度、香耶は言った。
「私の、2年間を、返して」



