激情に熱くなっていた香耶の頭が、すうっと急速冷凍されていく。
下を向き、触れた頬は、寒い待ち合わせ場所で待っていた数時間前よりも冷たくて、乱れていた香耶の気持ちを引き締めてくれた。
「あなたの言う、"お友達"が、どんなものか知らないけど」
背後に回された彼の腕を解かせて、物理的に距離をとって。
香耶は、さっきまでと全く違う顔で、彼に向き直る。
「私は、そんなものになるつもりは、これっぽっちもありません」
見つめた香耶の目の冷たさに気づいたのか、たじろいだように、彼が一歩、後ずさったのが滑稽だった。
「これは、詐欺よ。結婚詐欺」
「詐欺?!」
驚いた彼に不快感を隠さず、眉をひそめて、言い放つ。
「ごめん、で、許されるなんて……思わないで」
何をしようとも思わなかったけれど、許せる気分には到底なれなかった。
「そんな……香耶、俺にできることなら、何でもするから」
「……何でも?」
聞き返すと、慌てたような早口の言葉が入った。
「あ、いや、何でもって言っても、できることは限られるっていうか、離婚しろとか言われても、無理なんだけど」



