ルカが連れて行ってくれたのは、オペラハウスや動物園がある港から少し離れた小さな店。
黄色がかった灯りが照らす窓際の席に通されると、使い込まれたテーブルに、ちょっと擦り切れたメニューが置かれた。
主にシーフード料理を出しているというルカの説明通り、店内には魚介のやわらかい匂いが漂っている。
ちょうどルカの斜め後ろの席に運ばれてきた皿は、トマトソースのパスタのようだった。
とても美味しそうな匂いに惹かれて、香耶はそっとルカにささやきかける。
「ね、あそこのトマトのパスタ、美味しそうだけど何かな?」
さりげなく店内を見回す素振りで首を回したルカは、ほんの2秒くらい、香耶の示した方向で数秒、視線を留めてから、にっこりと笑った。
「カニのトマトソースパスタだね。僕のオススメのひとつだよ」
「じゃあ、それにしようかな」
「いいね」
「他のオススメは何なの?」
英語のメニューなんて見てもわからない香耶は、開いたままのページではなく、ルカの方しか見ていない。
その様子にくすっと小さな笑いを漏らして、ルカもメニューをテーブルに置いた。
「プラッターとカラマリが美味しいよ」



