「ああ……そうよね」
話を聞いていないわけではないけれど、頭の半分くらい上の空で会話しながら、香耶はドキンドキンと大きな音をたてる胸元に手をやって、静まれ、と念を送る。
「このくらいの時間になれば動き始めると思うけど、そろそろ食事しないといけないだろ」
「カンガルーのこと?」
「僕達のことだよ」
明るく笑うルカの目に自分と同じ照れた感情が浮かんでいないのを確認して、香耶はうるさく跳ねていた心臓に喝を入れる。
バカね、こんなにキレイな男の子が、私に何かしようと思うわけがないじゃない。
この人は親切心で来てくれただけなんだから。
「ええ……ああ、そうよね。もう夕方だし、ごはんの時間よね」
「……夕方というより、もう夜だね」
腕を上げたルカが、手首にはめた腕時計を見て、時間を知らせてくれる。
「7時だね」
「え?!」
驚く香耶の手にするりと滑らせた手の平が合わさったかと思ったら、きゅっと軽い力で握られた。



