「あのカンガルー!肘ついて寝っ転がっちゃって、ウチのパパそっくりだった!」
「へえ、そうなの?カヤのパパってずいぶん毛深いんだね」
「もう、そういうことじゃなくって!」
指先で、軽く腕を叩くと、ルカは大げさに声を上げて腕を押さえる。
「Ow!」
テレビで見たことのある外国人の芸人みたいなオーバーリアクションに思わず笑ってしまうと、ルカも声を上げて笑った。
「冗談だよ」
「わかってる」
顔を見合わせて、笑いあって、歩き出した香耶とルカの指先が軽く触れ合った。
ハッとして見上げれば、薄暗くなり始めた風景の中で、昼間とはまた色を変えたルカの瞳。
すっかり静かになっていたはずの心臓が、ドキン!と撃たれたように跳ね上がった。
「…………夏だからだよ」
息を詰めて見つめあう沈黙の時間を破ったのは、やわらかなルカの声。
「…………え?」
「カンガルー」
ドキンと心臓が音をたてたせいで、一瞬のうちに頭から飛んでいた話題が戻ってきて、香耶はホッと息を吐き、前を向いて歩き始める。
「夏だからって、どういうこと?」
「カンガルーも他の動物も、毛だらけだから、暑いんだ。それで大抵、夏の昼間はああいう風に日陰で休んでる」



