ウルルであなたとシャンパンを


「どうしてって……それは……観光に来たのよ」

動揺と、赤くなりかける頬をごまかすためにタルトに夢中なフリをしていると、ルカがためらうように何度か言葉を飲み込んでから、不審げな気持ちを隠そうともせずに問いかけてきた。

「行きたい場所もないのに?」
「それはその……気分転換、ていうか……」
「気分転換?……そう……」

ルカはまだ納得していない様子で香耶の言葉を繰り返して、でもそれ以上を訊くべきではないと気づいたように、寄せていた眉をほどき、大きく崩したケーキを口に運んだ。

「違う場所に行けば、気持ち……心も決まるっていうか、整理できるね」
「で、でしょ?」
「そうだね……自分の道っていうのかな、どうしたらいいか迷った時、旅に出る気持ちは、僕も少しわかる」

低く落とされた声はさっきまでの朗らかさとは全く違う、真剣な響き。

黒歴史を必死で隠そうとしている自分が、ちょっと恥ずかしくなるくらい、まっすぐに見つめられて、香耶は逃げるようにケーキに視線を落とした。