私は思わずノートに走り書きをした。
【私はいじめた訳じゃない!ただ見て......見てもない。私は何も知らない。】
「この値をxとして、mとfの交わる座標をもと.....」
先生の授業が、遠く聞こえる。


授業が終わって、席を立とうとすると、
伊呂波たちがやってきた。
「ねぇ!魅璃。光のこと、ぶっ叩いてくんない?」
「えっ。何で?」
「光、自分をいじめてるやつは全員死んじゃえって、ノートに書いてたらしいよ。」
「へぇ!そうなんだ。」
私は席を立って、光のもとへ歩いていく。
(何で?!私は別に叩きたいとか思ってない)
自分の気持ちとは裏腹に、足が進む。
光が怯えきった目でこちらを見ている。
(体が勝手に...ごめんなさい!)
そのうち私は、手を宙に挙げ光を叩いた。
光の頬がみるみる赤くなって、光は教室を出ていく。
保健室にでも行くのだろう。
それより私は、自分の体が信じられない。
(一体、どうしちゃったの?)
まだ熱い手を、冷ますように机に当てた。
「ナイスぅ!いい気味だねww」
光は、学校が終わるまで、教室に来なかった。

家に帰ると、お母さんとお父さんが喧嘩していた。
「あなた!いつまで仕事しないわけ?!そんなんだから、家の家計は厳しいの!」
「はぁ?何だと?仕事の大変さも知らない愚か者の癖に。」
お母さんは椅子を蹴ると、二階に挙がって行ってしまった。
ソファーの上ではずっと視ていたらしい妹の佐奈が涙を堪えてた。
お父さんが麻雀に行くと言って外に出ると、途端にその目から涙が溢れた。
「お姉ちゃぁん...パパとママは別れちゃうのぉ?」
「そんなわけないでしょ。大丈夫、大丈夫。」
私が佐奈のことを抱き締めると、泣き止んできた。
私の家は2年前からこんな感じで、ホントに家族って言えるのか分からない。
「お姉ちゃんとテレビ見る?」
そういってチャンネルをつけると、喧嘩のシーンで、慌てて佐奈の方を見る。
佐奈はちょうどあくびをしていて、見てなかった。
そっと胸を撫で下ろした。
疲れていたのか、私の目はゆっくりと閉じていった。