「今はあたし、ハルじゃないんだけど。サフィー」

思ったよりも冷たい声が心音の口から飛び出す。歌い手仲間だったサフィーが泣き出しそうな目で見つめていたが、心音は何も感じない。

歌い手だった頃、心音たちは本名では呼ばずに歌い手の名前で呼び合うことが多かった。懐かしいな、と心音は感じると同時に苦しくなる。

サフィーの後ろからなつめ、黒鉄、リーチなど懐かしい顔が現れる。どの目も心音を必死に見つめていた。

「何?今さら何の用?」

心音が冷たく言うと、なつめが「動画を見てくれたかどうかわからないけど、俺たち世間に真実を話したよ」と言う。

「俺たち、ハルが羨ましかったんだ。俺たちは何年も必死で動画投稿して、小さなライブ会場を回って、苦労してきたのにお前は一瞬にして歌い手として認められた。それが悔しかったんだ」

そう黒鉄が言うが、嫌がらせをされた理由など心音にとってはもうどうでもいいことだ。傷ついたあの日々は、もう幸せなものに塗り替えることなどできない。