「ハルさんが引退することになった理由っていう動画を他の歌い手さんたちが作って、その内容が事実なら人としてあり得ないって大炎上している歌い手さんが何人もいるんですよ!」

そう言い、女性が挙げていった歌い手の名前は、心音がハルとしていられなくなった原因となった人たちのものだった。

「歌い手、今は荒れてるんですね……」

寂しげな目で心音は呟く。懐かしい音があふれたような気がして、耳を塞ぎたくなった。



午後七時頃、ようやく仕事が終わったので心音は早く家に帰ろうと急ぎ足で帰っていた。

「仕事お疲れ〜!今日の夕飯は夏野菜カレーだよ!」

先ほど、森尾が今夜の夕食の写真をメッセージと共に送ってくれている。森尾のご飯はとてもおいしい。心音のお腹は空腹を訴えているため、心音の足はさらに早くなった。

「ハル!ねえ、ハルでしょ!!」

急ぎ足で家に向かう心音の背中に、まるで縋るような声がかけられる。その声を心音は忘れたくても忘れられなかった。