「それは、できないよ」

「うん、知ってる」


ごめんね、とはどちらも言わない。すでにおかした罪がある。

もうこれ以上、どこへも行けないと、ちゃんとわかっている。


ひとこと口にするたび、きみの心臓を抉っている感触がすること。返ってきた言葉の震えが、同じように感じていることを確かに伝えていた。




「このまま朝まで降り続けるのかな」


彼女はいつのまにか目を閉じていた。それでも月を宿していることには変わりがなくて、やっぱりとても、きれいだと思った。


「どうだろう。でも、きっと予定は変わらないよ。朝日の代わりに、大砲でも撃ちあげるんじゃないかな」



ふたつの町の境にあった美しい時計台は、両側からボロボロに壊された。町の行き来が盛んだった商人はいつからか姿を消した。あちこちに高く積まれたバリケード。兵士がいないのは緩衝地帯の森の中だけで、昼間でも通りに子どもの影はほとんどない。


夜明けとともに、戦争がはじまる。




「お父さまならやりそうだわ」

「ぼくの父もね。あのひとたちは、よく似ているから」