「あの男? もしかしてジュンくんのこと?」
「そう」と頷いた彼は、更に深く唇を重ねてくる。
やっと唇が離れた隙に、抗議した。
「やめて、なにもないのに」
「あったら困るだろ?」
クスクスと笑い合った。
――ありもしない未来にヤキモチをやく彼と、過ぎた過去に嫉妬する私?
なんだろう、幸せの裏返しみたいなこの悩み。
でも悩みには変わらないのだ。
こんなふうにキスをして一時は忘れても、心の中から完全にモヤモヤが消えるわけじゃない。
何かの拍子にゆっくりと鎌首をもたげてくる。
それは、ひとりで待つ夜だったり、出張で離れている時だったり、疑えばきりがないような状況の時に現れては困らせるのだろう。
それでも、もう離れることなんてできない。
だから。
お願い、どうか。彼の想いが永遠に変わりませんように。
泣きたくなるような想いを込めて叶星は彼の背中に腕を回す。
「好きよ」
――大好き。
愛しているわ、副社長。
*…*…*…*…*
『東堂副社長の、厳しすぎる初恋』
*-おしまい-*



