師匠に彼が語ったのは、彼女のことでも、東堂家や母親のことでもなかった。
初恋に振り回さていた自分を見つめ直すと言ったという。
――たかが恋、されど恋。
恋のために、分別のある大人の著名人が道を外し、ワイドショーを賑わせることもある。
初恋に翻弄された彼が、自分を取り戻すために行方を眩ましたからといって、なにも不思議はない。
――でも。恋の行方についてはどうだろう。
そう考えると、仁は胸が塞ぐ心持ちになった。
親に反対されたことで考えを変えるような彼ではないが、自分自身を見つめ直すと言った時の、彼の心境を思う時。
恋は毒だと切り捨てるような気がしてならなかった。



