齢七十になる師匠は、還暦を迎えた年、都内の道場を後進に託してここに移住した。
隠棲するつもりでいたのだろうが、周りがそれを許さなかった。衰えるどころか、ますます技には磨きがかかるばかりの師を求めて、世界中から沢山の弟子が教えを請いに来る。
いまも道場には、威勢のいい気合が響いていた。
大毅も黒崎も、同門の先輩になる。
「一足遅かったな、大毅なら今朝ここを立った」
外を見つめたまま師匠はそう言った。
大毅が行きそうな場所を考えた仁が、最初に頭に浮かべたのはこの道場だった。
身を隠すにあたり、密かに訪ねる先は友人宅であるのが普通かもしれないが、大毅の場合、それはないだろうと思った。彼の性格からして、友人に嘘をつかせることは嫌がるだろう。
その点ここならば嘘をつかせたくなくても、師匠が勝手に嘘をつく。
この偏屈な老人は昔から、誰それが来ていないか?と聞かれた場合、どういうわけだか必ず『いない』と答える。
隠棲するつもりでいたのだろうが、周りがそれを許さなかった。衰えるどころか、ますます技には磨きがかかるばかりの師を求めて、世界中から沢山の弟子が教えを請いに来る。
いまも道場には、威勢のいい気合が響いていた。
大毅も黒崎も、同門の先輩になる。
「一足遅かったな、大毅なら今朝ここを立った」
外を見つめたまま師匠はそう言った。
大毅が行きそうな場所を考えた仁が、最初に頭に浮かべたのはこの道場だった。
身を隠すにあたり、密かに訪ねる先は友人宅であるのが普通かもしれないが、大毅の場合、それはないだろうと思った。彼の性格からして、友人に嘘をつかせることは嫌がるだろう。
その点ここならば嘘をつかせたくなくても、師匠が勝手に嘘をつく。
この偏屈な老人は昔から、誰それが来ていないか?と聞かれた場合、どういうわけだか必ず『いない』と答える。



