呆れたように笑うセイさんに背中をポンと叩かれると、ほんの少し胸つかえがポロリと落ちた気がした。
「失礼いたします」
セイさんがリビングの扉の前で頭を下げドアノブに手を掛ける。
――とにかく謝るしかない。
隠れ場所を指示してほしいと頼んだのは自分なのだから。
決意するようにそう思いつめながら、息を吐いて叶星はリビングに入った。
天井はとても高い。
大きな窓には重たそうなカーテンが、計算されたように曲線を描いてタッセルで留められている。
猫足のソファに猫足のテーブルに重厚な作りの壁や家具。そこかしこに置かれているアンティークショップのような調度品。
叶星は、観光地で見た歴史ある洋館を思い出した。
一体いつの時代から存在しているのかとため息が出る、まるで文化財みたいな邸の窓際に夫人はいた。
まるで一幅の絵画のように佇んでいる。
「奥さま、何かお飲みになりますか?」
セイさんの問いかけに、ゆっくりと振り返った夫人は「私はコーヒーを」と言ってソファに向かって歩き出した。