「ああ、あの子は、大毅さまには縁談があるから別れるようにって奥さまに言われたんだけど、だからって身を隠すように言われたわけじゃないんだよ。大毅さま本人と直接話をする勇気がなかったんだろうね、それで自分から奥さまに頼んだんだ。隠れるところを指示してほしいってね」

「なるほど」

「いつまでも隠れているわけにはいかないし、そろそろちゃんと大毅さまと向き合って話をしなくちゃいけないって、あの子も考えていた矢先のことでね」

「それで、彼女は大毅さんのことをどう思っているんですか?」

「そんなの決まっているじゃないですか、好きなんですよ。嫌いならこんなややこしいことしないで、とっくに本人にそう言っているでしょ? あの子はただ自信がないから、怖くて逃げ回っていただけなんですよ」
さあどうぞ、目の前に出されたコーヒーを見つめながら、黒崎はため息を漏らす。