東堂副社長の、厳しすぎる初恋 +7/18

コツンと響くはずのパンプスの音は、その都度吸い取られてしまう。十メートル先を歩いている女性の姿は見えても、彼女の履く細いヒールの音は聞こえなかった。

静かだ。
静か過ぎて緊張感は増すばかりだが、いまの叶星に気負いはなかった。

社員として働いていた頃とは、心の置き方が違う。
失敗をするわけにはいかないという恐怖心もないし、クビになった困るという未来に対する不安もない。

大金を手に入れた時、二度と働くまいと思った。
これで自由になれる。一生好きなことをしてのんびり過ごせばいいんだと万歳をした。

ハワイに行って家事をしない生活を満喫しながら考えた。
さて、これから何をしようかと。
家を買って、服や宝石を買ってとあれこれ考えて、それだけで楽しかった。
でも、そんな気持ちは数か月で消えた。


――ここね。

叶星は副社長室というプレートを見上げて立ち止まった。