『この建物はね、ゲスト用の舘なの。そこの本邸にもゲストルームがあるのであまり使っていなくてね。使用人の舘でもあるのだけれど安心してね。
一階にはセイさんという家政婦さんの部屋があるから、困ったことがあればセイさんに聞いてくれればいいわ。あなたの部屋は二階。一番いいゲストルームを改装しておいたの。気に入ってくれるといいのだけれど』
その建物は夕暮れの中、屋敷の南に位置する広い庭の中で、風景のように佇んでいる赤い屋根の小さな洋館だった。
案内されて、渡された鍵。
『えっと、ここが私の部屋なのですか?』
『そうよ、色々考えたんだけれどやっぱりここが一番安心できるから。あの子は滅多に帰って来ないし、来たとしてもその時だけ部屋から出ないでいてくれれば大丈夫でしょう』
唖然とする叶星をひとり部屋に残し、夫人は行ってしまったのである。
『ああそう、あなたの食事はセイさんが運んでくれるから安心して。ではまた』
その後に現れたセイさんが、ワゴンに乗せて夕食を運んでくれた。



