六月末日夜九時。
東堂大毅はマンションを見上げていた。
帰国予定が数日早まったのである。
今日はちょうど叶星の派遣社員契約の最終日にあたる。どこか食事に行こうと誘うつもりだった。
でも、叶星がいるはずの部屋は暗い。
昨日から何度かかけている電話も繋がらない。
電源が入っていないというメッセージが流れるだけだった。
会社には来ていたということはわかっている。
仕事が一段落した夕方に彼女の席に行ってみたが、一足遅かったようで隣の席の女子社員から封書を渡された。
『もし、副社長がいらしたら渡してほしいと頼まれました』
『ありがとう。もし? もし俺が来なかったらなんて?』
『その時は、私が帰る前に黒崎さんにお願いしようと思っていました。ただ……』
そこで彼女は表情を曇らせて言い淀んだ。
『西ノ宮さんは、副社長が来なかった時は捨ててくださいと言っていましたが』