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「――ここだ」
困った時にはおいで。
その困った時がこんなに早く訪れるとは思わなかった。
せめて喧嘩をするとか、捨てられたとか。少なくとも彼が出張から帰ってきてから、来ることになるかもしれないと思っていたのに。
扉を前にして、叶星は肩を落とし溜め息をついた。
『氷の月』。扉の摺りガラスには、店名を表すような月のモチーフが描かれている。
氷のように溶けていく月。その月は、とても冷ややかに見えた。
それにしても、目立たない小さな看板だった。
途中どこにも店の在り処を示す物はなかったし、名刺がなければ入っていくのは憚られただろう。
それもそのはずで、よくみればMembers Onlyと書いてある。
会員制という店に入ったことがないので叶星はドキリとしたが、ガラスから見える店内は普通の店で、怪しげな雰囲気でないことは確かだった。



