東堂副社長の、厳しすぎる初恋 +7/18

社会に出て仕事をはじめてからは、心にも時間にもそんな余裕はなかった。

がむしゃらに毎日を乗り越えていくのが精一杯で、先輩たちにおいて行かれないよう必死で、恋はますます遠退いていった。

現実から逃げたくなると、優しい恋人や夫がいないことを嘆いたけれど、それはただの逃げで恋じゃない。
だから、恋愛については赤ん坊のようなもの。


そんな初心者が、副社長のように余裕ある大人の誘惑に勝てるはずがない。

スコーンと深いどこかに落ちてしまった気分だ。
そこには彼しかいなくて、彼のことしか考えられないという恋に満ちた世界に。

――参ったなぁ。

ため息をつきながら、叶星は『兎う堂』のビルを見上げるようにして歩いた。

残すところ今日からあと二週間、ずっとこんなことを考えながらこのビルに通勤するのだろうか。

入る前に立ち止まり、傘を畳みながら叶星は考えた。
たった三ヶ月の派遣でこんなことになってしまうとは、もちろん予想もしていなかった。