考え込んでいるうちに青信号になっていたらしい。
人の波に押されるようにして横断歩道を歩き出してもなお、叶星は考え込んだ。
うっとりするようなキス、虹、嫌いじゃなくなった梅雨。
変わっていく自分が少し怖い。
どこかの時点で、この変化を止められなかったのだろうか。
――これは良くない展開だと思ったのはいつ?
スポーツクラブで。寿司屋で。
なんとかできなかったの?
『イヤか?』
耳元でそう囁かれた。
『イヤです』って答えながら、じゃあどうして私は彼の背中に手を回しているの?って、自分に問いかけた。
キライなはずだった。
生まれながらの御曹司なんて、私のコンプレックスをチクチク刺激するだけなのに。
どんなに頑張ってもお嬢さまにはなれない現実を突きつけられるだけなのに。
だから突き飛ばさなきゃいけないのに。
わかっていながら彼の首筋にすがってしまう自分が悔しかった。
強引なくせに囁きは甘くて。
キスも。
触れる指先も、優しくて。