信号待ちの交差点で立ち止まった叶星はレインコートに目を落とし、さらさらと降る細い雨が、跡も残さずに流れていくのを見つめた。


雨上がりにはいいこともある。

一昨日の夕暮れ時、彼と雨上がりの虹を見た。

青と黄色と赤と。
まだ残っていた雲と青空を背景に浮かび上がっていた虹に、先に気づいたのは彼のほう。

ふたりで虹を見たのは、コーヒーを飲んだら帰るという彼が、『雨が止んだな』と言って外を見た時だった。



『お前を抱きたい』

思い出した声に、胸が苦しくなる。

至近距離で見つめられて、耐えられなくなって、彼の瞳から目を逸らした時に見えた小さな泣きぼくろ。

本音を見せない嫌な人。そう思ったのは最初だけだった。

いつも真っ直ぐで、彼には表も裏もないと気づいたのはいつだっただろう?