そんなことを思ううち、叶星は自分の唇を触っていることに気づいた。
「うわっ」
慌てて口から手を離す。
「おっ、どうした?」
ギョとしたように振り返ったのはワコさん。
「す、すみません、何でもないです」
エヘヘと笑って誤魔化した。
「出かける準備しておいてね、十時にはでるわよ」
「わかりました」
ノートパソコンを閉じながら、ふと思う。
私が副社長を好きになったところで、手酷く突き放すつもりとか?
そうだ。間違いない、きっとそうに違いない。
なにしろ彼には前科がある。
パーティで言った冗談。『俺と付き合わないか』と言って大笑いした彼。
確信めいてくると腹が立ってきた。
――酷い!
勢いよく立ち上がろうとするとピキーンと太ももが痛んだ。
「イタタ」
「え? どうしたの? もしかしてまだ筋肉痛? 長くない? 若いのに」
「はい……。スポーツクラブの鬼コーチが、鬼過ぎて」
足をさすりながら、叶星は眉をひそめて口をへの字に曲げた。
――もお! なんなのよ。



