第三章 優しい花の満開の花

「それでさ。自主研修どこいきたい?私は、厳島神社とかかな。特に興味はないけど。妥当なところじゃない?って成瀬聞いてんの?」
「ん?何?僕はどこでもいいよ。特に行きたいところもないし。」
僕たちは来月に修学旅行で行く広島でどこに行くかを話し合っていた。正直、僕はどこでもよかったのでほぼ任せていた。
「はいはーい。俺、お好み焼き食いたい!人生で一回くらい食べておきたい!。」
と、中野が言った。僕たちの班は、雪乃、中野、僕、そして佐倉の4人班だった。このメンバーで大丈夫なのだろうかと不安だったが、雪乃がいるので問題ない。実際、昔から雪乃しっかり者だし僕、とは正反対なのでなんにも心配はしていなかったが。僕が意見をださなくても勝手に決まるだろう。
「私もどこでもいいです。雪乃さんのおっしゃったとおり厳島神社でいいんじゃないでしょうか。それより成瀬君の意見も聞きたいです。」
佐倉は、僕以外の前では驚くほどに口調が違った。相変わらず僕に対してのめんどくささは変わらないみたいだが。
「んー。本当にどこでもいいんだよなぁー。そもそも、広島のことあまり知らないし。」
と、なんとか僕は意見を出さずに済んだ。そのあともなんだかんだあって、厳島神社によってお好み焼きを食べて行き当たりばったりで決めようということになった。ちょくちょく佐倉が僕に意見を求めてきたがなんとかはぐらかした。佐倉が以上に僕に突っかかってくるので、中野から佐倉さんお前のこと好きなんじゃね?と言われたがそれだけは断じてないと思った。自分から好きにならないでねとか言ってるんだから。そんなことは絶対にあるはずがない。
六時間目は自習だった。本当は社会の授業だったが、先生が体調を崩して帰宅したらしい。真面目な生徒は自習という課題をまっとうにやっているが、やってない生徒もいた。まあ僕はそんなに真面目じゃないのでスマホをいじって時間をつぶしていた。
〉〉成瀬君。自主研修どうでもよさそうだね。顔に出てたよ。明日の午後って空いてるかな?
佐倉からだった。失礼だけど、佐倉が予定を聞いてくるなんてなぁと思った。明日は日曜日なので空いているがゆっくりしたかった。
〉〉んー。その日は彼女とデートするから無理かな。
〉 〉彼女いないでしょ。意味不明だね。じゃ明日の午後学校の最寄り駅に集合ね。本当に予定があってもキャンセルさせる予定だったけど。
やっぱりこいつは自分勝手だ。まあ付き合ってあげるといったんだから仕方ないだろう。てか、佐倉はどこにいこうとしているんだ?気になった僕は佐倉に聞いた。
〉〉どこ行くつもり?金必要?あんま遠くにいきたくないんだけど。
〉〉修学旅行に持ってく服だの必要なもの買いに行くだけだよ。
それを聞いた僕は一安心した。駅と聞いて県外へでも行くのかと思ったからだ。
〉〉了解。僕も必要なものでも買うわ。
〉〉やっぱり予定ないんじゃん。まあ行くならいいけど。
ちょうど僕も買いに行こうと思ってたからついていってやってもいいかなと思った。
そしてその翌日。僕はこの真夏の中30分も駅の前で待っていた。この日は雨上がりの快晴で湿気がありとても暑かった。僕の水筒も現に半分以下になっていた。もう帰ろうかと思っていた時だった。
「ごめーん。ちょっと寝て・・・し、仕度に少し時間がかかってさ。男の子と買い物いくなんてそうそうないからさ。ね?」
佐倉は、仕度したとは思えない寝癖がついていた。一日無視してやろうかと思ったけど無視したらこいつはめんどくさくなるからやめた。
「別にいいよ。行くなら早くしてくんない?蒸し暑すぎ。」
佐倉は僕の予想外の発言に驚いたのか目を大きく開けて言った。
「え!怒んないの?成瀬君なら、お前から呼び出しておいてなんだ!殴るぞ!とか言いそうなのに。」
佐倉は僕をどんなキャラだと思っているのだろうか。そんな殴ったりなんかする脳筋頭ではない。てかこんな人の前で殴るやつなんていないだろ。
「は?怒る気力なんてもう僕にはない。怒るよりクーラーのきいたところへ行くほうがお互いにいい。僕はもう溶けそうだ。」
「そっかぁー。じゃあ行こっ。」
あー。涼しい。もうあの30分を待っていたときの記憶はほぼない。でも、体の汗の量がそのことを示している。タオルを持ってきた僕は天才だ。
「やっとついたねー。スタバで休憩しようよ。飲み物くらいおごるよ。待たせちゃったし。」
「たまにはいいこと言うね。賛成だ。異論はない。」
ここは天国か?ちゃんとした椅子に冷たい飲み物もある。ここに1時間くらいいてもいいような気がした。
「成瀬君?これから買い物行くんだよ?ここで満足したような顔してるけど。ご飯食べたり、映画みたり。」
僕は耳を疑った。映画?ご飯?佐倉はいつまでここにいるつもりなんだろうか。
「佐倉は、僕が帰った後映画みるんだ。いいね。僕は、勉強の予定があるからなー。」
「何言ってるの?成瀬君ももちろん見るんだよ。お手伝いでしょう?楽しく色付けしないと。」
もう最初から大体は嫌な予感かしていた。あの佐倉が買い物だけでおさまる人間ではないと思っていたからだ。それにここに来るまでに佐倉のカバンの横に映画のチケットが入っていたからだ。
「はぁ。大体は覚悟していた。その映画が終わったら僕は絶対に帰るからな?で。何時から?」
僕は自分はなんて優しい人間なんだろうと思いながら言った。すると、恩を仇で返されたような気分だった。
「えーと。夜の8時だね。眠くなりそうだな~。私は前から見たかったやつだからいいけど。」
「は、八時?!そんな遅くまでいるのかよ・・・ここに。」
「ふふふ。まあ楽しもうよ。決定事項に文句言ってても意味ないよ。」
決定事項なのかよ・・・。こいつは本当に人の予定を聞かない。それからは服を買ったりして時間を費やした。佐倉はやっぱり服一枚に一万、二万と賭けていた。たった、2泊3日なんだからそんなに買う必要ないだろと思ったが、佐倉自身が満足していたので何も言わなかった。
「さーてと。夜ご飯の時間だしなんか食べますか。なんか食べたいのある?」
僕は対してお腹は減ってなかったのでそこまで重いものを食べたくなかったが、僕がそれを言う前に佐倉は、ハンバーグに決まりね!とか言ったので結局、レストラン街のハンバーグのお店に行った。
佐倉は、席に着くなり店員を呼び出してから選び始めた。そしてハンバーグセットを頼んでいたようだった。僕は、何も決めていなかったので「彼女と同じのください。」といった。
「あのさ。僕が決める前に呼ばないでくれないかな。それにメニュー見てから頼みなよ。店員さんに失礼でしょ。」
「いや、どうせ成瀬君はなんでもいいでしょ。それに私の頼んだのここの店のおすすめなんだ。成瀬君は急かしたら絶対私と同じものを頼むだろーなって。お店入る前にこの作戦を思いつきました。」
なら、それを僕に言えばいい話だろうと思った。そして料理が運ばれてきた。ここのハンバーグはおいしかった。
「佐倉のと同じにして正解だったかもな。久しぶりに食べたからかわからないけどおいしいよ。」
「そっか。よかったよ。おいしいのは私と食べてるからだよ。一人より二人のほうがおいしいとか言うでしょ?」
と、佐倉は澄ました顔でいった。それから佐倉はデザートまで頼み結局、僕もそれを頼んで夕食を満喫してしまった。
なんだかんだあり、結局映画の時間になった。佐倉はあの夕食を食べたことを忘れているかのように、ポップコーン、チュロスなどを買っていた。
映画は恋愛映画で、付き合っていた男女が女の子が病気で死んで彼女の遺言を聞いて明日から頑張って生きていこうみたいないかにもありそうな映画だった。終わったころには10時になっていた。結局帰宅したのは11時くらいで、寝る仕度を済ましたころには12時になっていた。疲れたので寝ようとしたら佐倉からメールが来ていたことに気が付いた。
〉〉今日はありがとねー。楽しかったよ。またどこか行こうね!今度は県外にでも。
冗談じゃない。こんなに疲れたのに県外なんていってしまったらフルマラソンを走った後くらいになっているだろうと思った。
〉〉冗談はやめてね。まあ僕も楽しかったよ。
僕はメールを見て驚いた。無意識に楽しかったよなんて打ってしまっていた。でも、考えてみるとつまらなくはなかったのでそのまま送った。そしてそのまま眠りについた。

翌日。佐倉は学校に来なかった。昨日はあんなに元気だったのにどうしたんだろうかと思った。
「よぉ!成瀬!修学旅行いよいよ明後日だな。どうしよう。佐倉さんにどうやって話そうかな・・・?そういえばお前、昨日佐倉さんと一緒にいた?なんか駅でお前と佐倉さん見た気がしたんだけど。勘違いだったらすまんな。俺、昨日駅前に友達とシューズ買いに行ってたときに見た気がしたんだけど。
僕はとても驚いた。おそらく部屋にゴキブリが出たときより驚いていた。
「ゲホッゲホッ。は?んなわけないでしょ。そんなことあるわけないだろ。」
「そうだよな。あの成瀬があんな美人と買い物いくなんてな。そっか。なんかわりーな。じゃ、また。」
まじか。中野は友達と行ってたと言った。中野のことだ、もしかしたらその友達にも言ったのではないかと心配になったが結局、授業が始まる前に僕に声をかけたのは雪乃くらいだった。
雪乃は修学旅行の話をしてきていたが、そんなことより怖くて話を聞いていなかった。
そして何事もなく一日が終わり、学校から帰ってメールを見てみると昨日送ったはずのメールは既読になっていなかった。
〉〉体調でもくずしたか?明後日修学旅行だぞ。買った服が勿体ないから来いよ。
僕は雪乃や、中野の話し相手にはなりたくなかったから適当な理由をつけて来るように促すようにメールを送った。
だが、その翌日も佐倉は学校に来なかった。メールも既読がつかない。さすがにあの僕の前ではうるさい佐倉が未読なのはおかしいと思った。いつもはメールしたら最低でも1分で既読が付くからだ。
〉〉大丈夫か?佐倉。あいつらの話相手は嫌なんだが。
このメールも結局未読のままだった。そして修学旅行当日になってしまった。
僕は佐倉が来ないんじゃないかということが頭の中の片隅にいたがそれは学校についたら跡形もなく消えた。普通に佐倉は雪乃と話をしていて笑っていた。
「よっ!成瀬。いよいよ当日だな。俺、この修学旅行中に佐倉さんに告っちゃおうかな。」
「は?お前まじで言ってる?」
「え?成瀬君も佐倉さん狙ってる感じですかぁーー?」
いくらなんでもそれは焦りすぎなのではないかと思った。てか、そもそも佐倉は絶対彼氏なんて作る人ではない。中野は佐倉とそれにあんまり話していなかった。
「いやそういうわけでは断じてない。ああいう清楚系は近寄りがたいから嫌いだ。」
と、僕は思ってもいないことを言った。本当の彼女は自分勝手、相手の都合を考えない という致命的な欠点がある。それに余命が半年という事実も・・。僕は真顔で言ったからか中野はすぐに信じた。
「だよな。お前あーゆーの嫌いそうだもんな。そもそも興味なさそうだから。」
なんて、僕たちが会話をしていると雪乃と佐倉が僕たちに気づいたみたいでこちらに向かってきた。
「成瀬おはよー。ちゃんと来たんだね。よかったよ。」
「成瀬君、中野君おはようございます。」
本当の佐倉を知っているからか佐倉のその発言はなんだか気味悪かった。そして出発する時間になり僕たちはバスに乗った。
大体班で固まって座るみたいで僕の横に中野。その後ろに雪乃と佐倉が座った。出発して二時間もしたら中野は寝てしまっていた。僕も眠かったので寝ようとすると、
〉〉成瀬君ごめんね。大分、心配なさってたようで(笑)大丈夫だよ。ちょっとここ2日病院行ってたんだ。
なんて2日間休んでた理由を話した。改めて本当に病気にかかっていることを示されたような感じだった。
〉〉別に心配なんてしてないけど。こいつらの話相手になるのは御免ってだけ。そういうことだったのか。わかった。あと佐倉さ、あの話し方やめてくんない?なんか気味悪い。
〉〉いやいや。ダメでしょ。仲がいいって知られたくないんでしょう?私なりの配慮なんだけどなぁ。それにしてもあいかわらずつまんなそ。広島だよ?2回目?
なんで僕が広島へ行ったことがあることを知ってるんだ?そんな話佐倉には話したことと思ってたけど。それにあまり思い出したくない。
〉〉なんで僕が広島に行ったことあるって知ってんの?前に話した?
〉〉いや、なんとなくだよ。それより今日の自主研修ってどこいくんだっけ?
なんか不思議に思ったが、場所だのなんだの教えてやった。
〉〉厳島神社だろ。てか、佐倉メールしてていいのか?雪乃に見られたりしないの?怖くてうしろ向けないけど。
〉〉あー。大丈夫。雪乃さん寝てるから。じゃ、またね。
なんか腑に落ちなかったので改めて聞こうと思いメールを打っていたが、中野が起きてしまったのでそれはかなわなかった。
「よしっ。厳島神社行きますか。えっーと。ここの道を真っすぐ行こう。」
と、雪乃の指示が飛んだ。バスから降りたらすぐに自主研修開始なので僕たちはまず、厳島神社へ行くことにした。が、船にのらないと実際に近くにはいけないことが判明したのだ。なので船に乗らなくても見れる海岸まで移動した。特に僕は興味がなかったので、遠くの水平線をただ見ていた。
「成瀬君って興味あるものなんかないの?まじでつまんなそ。私も特に興味ないんだけどね。こんなん見てるよりこないだのほうが楽しかったよ。」
佐倉がそう僕に向かって言ってきた。佐倉は佐倉で本当に退屈そうだった。雪乃は写真を撮っていたし、中野はどっかのレストランの食品サンプルを眺めていた。
「佐倉は写真とらなくてもいいの?こんなの来ることめったにないだろ。」
「別にいいや。来ようと思えば来れるよ。時間があるうちはね。それに私興味ないって言ってるのに写真撮るわけないよ。」
それもそうだなと思い、雪乃と合流することにした。雪乃からは、あれ?二人一緒だったんだ。と言われたが佐倉がごまかしてくれた。
それから僕たちは昼食にお好み焼きを食べることにした。
「んー。何食べよっかなぁ。じゃあ私はいか玉えびトッピングでおねがいします。あと、カルピスで。」
「じゃあ俺はデラックス!焼きそばもおねがいします!あとメロンソーダも!」
二人は事前に調べてきていたのかすんなりと注文していた。僕はミックスを一つと烏龍茶一つお願いします。といい佐倉は、
「じゃあ私も同じの一つお願いします。烏龍茶で。」
と、同じのを頼んでいた。すると、中野から小声で
「やっぱり、佐倉さんお前のこと好き説ある?」
小声で言ったときになんとなく想像がついていたが当たっていた。
「いや、それは断じてないだろ。」
「わかんないぜぇ~?」
と、ムカつく言い方で言ってきたので反論してやろうと思ったが、中野が読んだかのようにお好み焼きが来てしまった。大阪のお好み焼きとは違くてソースがおいしかった。
僕は満足してしまっていて先ほどのことも忘れていた。
「さーてと。どこ行く?もう予定ない。行き当たりばったり作戦失敗じゃん。」
と、雪乃が口をとがらせて言った。すると、佐倉がこんな提案をした。
「もし、よかったらなんですけど・・・。あれ、乗りませんか?私乗ったことないので気になります。」
佐倉は指をさして言った。指が刺されていたのは観覧車だった。
「うん!それいいね!佐倉さん最高だよ!あれ乗ろーぜ!」
中野が後押ししていたので結局、観覧車に乗ることになった。
観覧車は二人乗りだったので、じゃんけんをして僕と雪乃、中野と佐倉が乗ることになった。
中野は乗る前に僕にこう言ってきた。
「よしっ。俺、佐倉さんに告白する!決めた。成瀬。見とけよ。」
あまりにも自信満々で言うので鼻で笑った。そう言って二人は乗っていったが、佐倉は自分から乗りたいといった割には楽しそうな顔をしていなかった。
「じゃあ、私たちも乗ろっか。」雪乃がそう言ってきたので僕も仕方なく乗ることにした。
「うわー。久しぶりに乗ったけど意外と高いね。ちょっと怖いかも。」
僕はというと全然怖がることもなくただ人を眺めていた。なんだか人がありのように見えて人つまみで潰せるような気がした。
「ねぇ。成瀬ってさ。好きな人とかいるの?」
嫌な予感がした。それは僕の本能的なものがそれを告げていた。これを止めないとあぶない と。
「あれ、見てよ。すごいよ。ほら。」
「私さ。成瀬のことが好きだよ。なんでこんな人好きになったんだろうね。自分でもわからない。」
やっぱりな。めんどくさかった。正直、恋愛なんてしたくなかった。それに僕は人のことが好きになったことがなかった。
「・・・。」僕は無言で外を見ていた。それからしばらくの沈黙が流れた。
「やっぱりね。すぐ返事してくれるなんて思ってなかったよ。でも私は成瀬が好きなことは事実だと思うんだ。返事待ってるよ。いつでも」
それから僕たちは何も話すことがなくただ終わるのを待っていた。僕のスマホにメールが来た音が鳴り響いた。見る雰囲気ではないことくらいは僕でもわかったので見るのはさすがにやめた。だが、そんなときに限って次から次へとメールが来る音がする。雪乃は僕に気を使ってるのだろうか、スマホを見だした。なので、僕も確認することにした。メールは佐倉と中野からだった。
〉〉ねぇ。私さ、今中野君に告白されたんだけど。これって振ってもいいの?ちょっといいかなって言われて中野君がスマホ見だしたから私も見てるんだけど。なるべく早く返信して。おねがい。私こうゆうのわからない。失礼だけど中野君のこと好きじゃない。なんだか気持ち悪くなってきた。
〉〉成瀬。一生のお願い。告白してから佐倉さん黙っちゃった。こうゆうときって俺から話したほうがいいのか?お前ならなんて話す?佐倉と仲いいだろ。見たぞ。お前海岸で佐倉と話してるの。どうやって話した?それを教えてくれ。なるべく早く返信してくれ。頼む。
こんな偶然あるのだろうか。それにとてもとてもめんどくさい内容。おそらくここ一か月で一番頭を使っただろう。
〉〉佐倉が嫌いなら振れよ。中野はそんな落ち込むやつじゃない。(佐倉に向けて)
〉〉佐倉に返事を求めろ。あいつは多分だけど自分から話すのは苦手だと思う。あくまで予想だけど。(中野に向けて)
ふー。とりあえず今考えられる最善で一番丸く収まる方法はこれだろう。中野には悪いが。
「なんか成瀬焦ってる感じするよ。珍しいね。そんなに緊急のメールだったの?」
雪乃が僕の様子を察したように言ってきた。僕は困り曖昧な答え方をした。
「ま、まあな。あはは。」
「別に断ってもいいけど返事くらいはほしいかな。迷惑なのは承知の上だけどおねがいだよ。」
「あ、ああ。わかった。」
おそらくメールの返信が来たので目線をスマホに移した。すると両方から返事が来ていた。
〉〉成瀬君の言う通り振ったよ、返事求められたから。めんどくさいなぁ。って思った。こんなことになるなら観覧車になんて乗るんじゃなかった。人を好きになれないのはつらいね。
〉〉成瀬。ダメだったわ。多分佐倉お前のこと好きだよ。他に好きな人いるって言われたし。男子で話してるのお前くらいじゃないのか?佐倉さんと。
僕の思った通りに行って一安心だった。両方にこのことがばれたら終わりだなとも同時に思った。終わりではないか。でもなんらかにやばそうな展開になることは安易に想像できた。
そして僕たちは観覧車を降りた。雪乃は特に変わった様子はなかったが、佐倉と中野は大きく違って見えた。
中野はただ単純に落ち込んでいた感じが見てわかった。雪乃が心配して声をかけていたが、中野は作り笑いで大丈夫、高いところ苦手とか言ってごまかしていた。そこまで真剣だったとは思わなかった。
一方佐倉は、前に僕に言ってきたセミの抜け殻のようだった。心は死んでいて形だけが残っているみたいな。僕は仕方なく一声かけてやった。
「大丈夫?死んでるような目してるけど。」
「うん・・・。なんかね。言葉では表せないってこういうことなんだなって。」
そういってもうなにも言わなかった。そのあと僕たちは集合場所のホテルに40分前に着いた。セミの抜け殻が二人いて自主研修をさすがに続行できないと判断した僕はホテルに帰る提案をしたからだ。夜に佐倉にメールしてみようと思ったけど、先生によってスマホは一時預けなければいけなかった。そうして一日目が終わった。
そして2日目、3日目と特に何もなく、佐倉に送ったメールは既読はついていたが返信はされなかった。中野も2日目は落ち込んではいたが3日目になるといつもの50%くらいの元気さは取り戻していたようだった。こうして僕たちの混沌した修学旅行は幕を閉じた。