「飛翔を失敗したとかですか?」
「いや、そんなんじゃないな。そもそもそんな()もなさそうだったし」
「では、どういう?」
「う〜ん。よくわからんけど、とりあえずこの国の者じゃない」
「なんですかそれは」
「だってさ、この国——竜王国のことすら知らなかったんだぞ。竜王国のことも知らなければ、竜王様(ラファ)のことも知らなかった」
 この広い世界、竜王国と竜王のことを知らない者もいるでしょう。しかし、飛翔できる範囲から来たのだとしたら、知らないということはまずあり得ません。
「ふむ……。どんな娘なんですか?」
「この国じゃあ珍しい、栗毛色の髪にスモーキークウォーツの瞳だったな。まあ顔はかわいい系じゃないかな。なんだ、インディゴ、その娘に興味あるのか?」
「そんなんじゃないですよ。ったく」
 竜王国人は暗めの色素が多い。バーガンディーの言うような明るめの色素を持つ者は隣国に多いと聞きますが……。
 なにか胡散臭い気もするんですがねぇ。
「それで、その娘は今どこに?」
「ラファの指示で、厨房にいるよ」
「なぜ厨房に?」
「さあ?」
 バーガンディーの話では、行く当てのないその娘に滞在の許可を与えたのはラファだというじゃないですか。しかもどこでも寝られるとか言うもんだから、部屋を与えるでなく、適当に人のいる場所——厨房に案内したらしいじゃないですか。
 ラファエル……それはあまりに適当すぎませんか?「——とにかく、その娘はまだこの城にいるってことですね」
「そうだよ」
「わかりました。後はラファ本人から聞きましょう」
 私は執務を一旦中断し、竜王の元に急ぎました。ついでに追加の仕事を持って。