主人公の前に一人の青年が泣き崩れている。

私にはその青年がとても、愛しい感覚がしたのが、一切の記憶がなく、なぜなのか、全くわからない。

自分が今、どのような状態に陥って居るのかさえも…。

吐く息も凍るほど、冷たく暗い闇の中に、キラキラと輝く、巨大な氷の結晶が厳かに佇んでいる。
その闇の中から、嗚咽が漏れていた。
巨大な氷の結晶の前で、均整の整った、青年が泣くのを我慢しても、止めどなく溢れる涙を抑えながら立っていた。

巨大な氷に向かって、なにかを呟いている。

こんなに凍てつくほど極寒のなかで。

巨大な氷の中には、一人の少女が閉じ込められていた。

まるで、飾られた標本のように生きているように見える。

( 愛しい、愛しい、愛しい、あなた… )

少女の心の声が囁く。

( どうか、わたしを忘れないで… )

その声が、聞こえたのか?青年は、その場を去って行った。