思えばサチは昔から少し変わった子だった。


誰もいない公園のブランコをじっと見つめていたり、教室のひとつ空いた席にそっと鉛筆を置いたり、花びらをひとつひとつ川に流したり。時にはひとりでどこかへ行って、こちらへ帰ってくるときには背の方へと手を振っていた。もちろんそこには人影はない。

中学生に上がる頃には、サチは周りから距離をとられるようになっていた。

誰もいない教室の角に向かって話しかけたり、授業中ひそひそと小声で独り言を言う。時には笑いながら、時にはむっとして、時には涙を流していた。サチのそんな変わった言動を、周りはひどく気味悪がった。

けれども転機は突然訪れるものだ。

高校生になったサチはみるみる背が伸びて髪を伸ばした。本人曰く切るのが面倒になっただけとのことだ。それでも見た目を変えるのには十分すぎる要件だろう。

元々白かった肌と整った顔立ちを、伸びた身長ときれいなストレートの黒髪が助長した。地元から少し離れた高校に入学したことも重なって、サチは『気味の悪い』存在から、『ルックスが良くて手を出せない高嶺の花』へと変わった。もちろん、変わったのはサチの身長と髪の長さ、そして周りの印象だけではあるが。