「――この絵、飾る場所空けてあるからな」
最後に、残った壁に掛かった桜の絵を見て陽真が穏やかに言う。
マンションのリビングの一番良い位置に飾れるように準備してくれているらしい。
桜衣が生まれる前に父が描いた絵だと言う事は陽真にも伝えてある。
絵が趣味だったのか、どんな思いでこの絵を描いたのか……亡き父がどういう人だったかも分からない。でも、母の宝物だったこの絵を、これからも大切にしていこうと思う。
「ありがとう」
心遣いを嬉しく思いながら、桜衣が壁から額を外そうと手を伸ばすと、隣に立った陽真にその手を繋がれて降ろされる。
「陽真?」
彼の視線は目の前の絵に注がれたままだ。
そしておもむろに口を開いた。
「お義父さん――安心して見ていてください。桜衣さんを絶対に幸せにします。ずっと一緒に人生を歩んでいきます」
愛しているから、と。
驚き、見上げた彼の横顔は真剣だった。
彼の言葉が桜衣の胸に染み込む。温かい感情が溢れて来て涙になって零れる。
(お父さん――お母さんも、喜んでくれてるよね。この人に出会えた事)
陽真は絶えることなく、真っ直ぐな愛情を桜衣に向け続けてくれている。
ひとりでも生きていけたのかも知れないし、この世に絶対など無いのかも知れない。
でも、彼といると信じたくなるのだ。
絶対や、永遠という不確かなものを。
――愛しているから。
太陽のようなこの人と、ずっと一緒いられますようにと願わずにはいられない。
「ありがとう……陽真。私も陽真を幸せに出来るように頑張るね」
桜衣は温かい涙を零しながら花が綻ぶように笑う。
陽真は目を眇め、心から愛しそうに桜衣を見つめてから、彼女の肩を引き寄せ髪にそっと唇を寄せた。
「俺は、君がいれば――それだけで幸せだよ」
絵の中の桜は、春の陽射しを受けながら穏やかに花びらを舞わせていた。
了



