午後、東京に向かう列車。
 空いた車内のボックスシートに並んで座るにふたりの姿があった。

 結局ガッツリ体力を削られた後、疲労した体に鞭打って、片づけや身支度に慌てる羽目になった桜衣は少々機嫌が悪かった。

「乗換の時に桜衣の好きな駅弁何でも買ってあげるし、グリーン車指定したから」

 彼は無理をさせた自覚があるのか、婚約者のご機嫌取りに余念がない。

「グリーン車なんてもったいないのに」

 ともあれ、予定よりだいぶ遅いものの、今日中に東京に帰れそうだ。

(それにしても、こんな形でまたここを発つなんてね)

 桜衣は感慨深く窓からホームを眺めた。

 改修されたため、駅の作りは記憶とは変わっていて、以前は無かったエレベーターが付いていたりするが、所々昔の佇まいを残している。

 一度、喪失感と諦めを抱えながら去ったこの場所。もう来ることは無いと思っていた。

 でも、時を経てここを訪れる事になり、今、未来を共にする人と一緒に発とうとしている。

 置き去りにしていた少女の時間が、今の桜衣と重なって再び動き出す。

「いつでも帰って来ような……ふたりで」

 隣の陽真が優しく笑う。

「……そうね」

 桜衣も心からの笑顔を返す。

 ホームに発車のメロディが流れると、ガタンという音を立て列車はゆっくりと動き始めた。

 陽真に握られた左手には桜色のダイアモンドがそっと輝いていた。