「カンパーイ!」

「お疲れさまでした~」

 会社の最寄り駅に近い和風の個室居酒屋で打ち上げが始まる。

 かしこまり過ぎず、かといってカジュアル過ぎない雰囲気は今日のような社会人の打ち上げには丁度いい店だ。
 聞くと未来が予約を取ったらしい。若手中心の6人なのでこじんまりとした会だ。

 主役の陽真はまだ来ていない。
 会場の場所を連絡した時に、もう少しかかりそうだと返事が来ていた。

「しっかし、今日の結城さんカッコよかったですねぇ」

 あれだけ大勢の聴衆の前でも余裕のしゃべりしてましたからね!と興奮気味に話すのは海営部の若手男子だ。

「そうね、緊張しないでしゃべれるのは羨ましいわね」

 中学時代も生徒会長として壇上に立っていたが、あの頃から堂々としていた。
 人前で話すことも得意なのだろう。

「いやぁ、倉橋さんこそ、いつも余裕でカッコよく仕事こなしているじゃないですか」

 ずいっと身を乗り出してきたのは別の男性社員だ。

「今日はラッキーです。倉橋さんと園田さん、社内で絶大な人気を誇る女性二人と飲めるなんて役得ですよ」

「何言ってるのよ。未来ちゃんはともかく」

「いえいえ、特に倉橋さんは簡単に声を掛けてはいけない雰囲気で、高嶺の花だったんですけど、最近では結城さんがガッチリガードしているせいで益々近づけなくなったって男はみんながっかりしてるんですから」

「え?」

「そうそう。結城さん怖いっスよ。倉橋さんの事素敵ですねって言ったら『へぇ、お前見る目があるな』って言いつつ物凄く怖い顔で睨まれましたもん。あれ、言ってることと表情が全く合ってなかった……」

「えーそうなんだ!それは完全に牽制されてるわねー」

 男性陣の会話に未来がニコニコしながら参加している。

「そ、そんなこと、無いでしょ」

 ただでさえ今日は心がざわついているのに、そんな話をされると更に混乱してしまう。

 心を落ち着かせようと、ついグラスを何度も口元に運んでしまい、飲むペースが速くなってしまう。

「倉橋さん、次もビールで良いですか?」

 彼らに勧められるまま2杯目を受け取る。

「えっ、桜衣さんいいんですか?いつも1杯だけって――」

「うん、まあ大丈夫でしょ」

 心配する未来に答えながら飲み進める。叔父の言いつけで外では控えているが、家で多少飲んでも二日酔いになった事も無いし大丈夫だろう。
 
 たまにはいい。今日は飲んでしまいたい気分なのだ。

 そう思って、再びビールを喉に流し込んていると、テーブルの上のスマホが着信を告げた。
 陽真かと思って手に取ったが、表示された名前を見て思わず顔がほころんだ。

「ごめんね、ちょっと電話出てくるね」

 急いで座敷が出て、店内の人目の付かない場所に移動しながら通話ボタンを押した。

「――涼くん?」